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サンデル、読んでる

以前、ハーバード白熱教室を見た感想を書きました
あの番組には衝撃を受けましたね。

もっとも、サンデル教授の思想に感銘を受けた、というより、あの授業が素敵で羨ましいと感じたのですけど。

ただ、番組を見ていると、否応なくサンデル教授の思想そのものにも興味が出てきます。

で、サンデル教授の著作
これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学』(Justice: What's the Right Thing to Do?)
も読みたくなってきました。

近くの図書館で予約を入れ…(買わないのか)

…そして、待つこと約半年…!

最近、ようやく私のもとにまわってきたのでした。

で、読んでみたところ…

確かに面白いです。
哲学の本ですが、分かりやすくて読みやすい。
例え話がふんだんに入れられており、形而上の話に留まらないのが、哲学シロートの私にはありがたかったです。

しかし…う~ん。
白熱教室を見た時のモヤモヤが払しょくできない…。

僭越ですが…ちょっと感想書いてみます。
(もはや流行りも過ぎ去り、今さら感はありますけど…。だからネタバレ?も気にしない。)

正義へのアプローチには3つがあるそうです。

1.功利主義からのアプローチ=幸福最大化
2.自由主義からのアプローチ=個人の自由の最大化
3.道徳的観点からのアプローチ=美徳の奨励

1と2は、私でも分かりやすいのです。

しかし、サンデル教授は、この2つに様々な例を出して、反論します。
(例えば、「テロを未然に防ぐために、首謀者の娘を拷問するのは正義か」=最大多数の幸福への反論)

そして、サンデル教授は、
「私が支持する見解は第三の考え方に属している」(引用)
と言います。

「公正な社会は、ただ効用を最大化したり選択の自由を保障したりするだけでは、達成できない。公正な社会を達成するためには、善良な生活の意味をわれわれがともに考え、避けられない不一致を受け入れられる公共の文化をつくりださなくてはいけない。」(引用)

しかし…。
すべての人類が納得する共通の「道徳」「善」って、あるのでしょうか?

サンデル教授自身も
「多元的社会の市民は、道徳と宗教に関して意見が一致しないものだ。」(引用)
と書いています。

そこで、「コミュニタリアニズム(共同体主義)」という考え方が出てきます。
コミュニタリアニズムは、共同体(コミュニティ)の価値を重んじる政治思想。コミュニティの善や道徳、連帯と帰属を重視する…らしいです。

そして、サンデル教授は、コミュニタリアンなのです。

コミュニティを例えば「国」と考えてみると、ちょっと分かりやすいですね。
ひとつの国の中での道徳や善というのは、「すべての人類」よりはまだ考えやすいです。

しかし…ですね。

国家の正義…なんてのは、当たり前すぎて、今さらのような気がします。
戦争をする場合、それぞれの国は自分の正義を振りかざしますからね。
正義はひとつではない。そんなことは子どもの頃「ガンダム」を見た時点で認識したことですよ(笑)。

さらに言うと、「コミュニティ」は国に限った単位では無いので、その範囲をもっと狭く取ると「〇〇県の正義」「〇〇町の正義」「〇〇家の正義」…と、どんどん「個人の正義」に近づいてしまいます。(そりゃあ、道徳や善はコミュニティが狭いほど統一化されるでしょうけど)

勘繰ると、どうもこの本による「正義」は「アメリカ社会」と、「キリスト教的道徳」を念頭においていると取れる節があるのです。
(キリスト教義に反する妊娠中絶やES細胞、同性婚について、暗に否定的な立場を取っているように読めたりする。)

「Justice(正義)」なんて大それたタイトルを掲げる以上、「万人の正義は存在するか」について論じているもの、と期待していたのですが…。

これを読むと、むしろサンデル教授の反論する、1や2の考え方の方が、「善」といったような普遍化しにくい要素を排除した上で正義を考えるアプローチとしては、逆に納得感があるように思えてしまいました。

ただ、サンデル教授らの気持ちもちょっと分かる気はするんです。
これまでの「ドライな」政治哲学だけでは社会が良くならない、道徳のようなウェットな要素をを取り入れられれば、もっと良い社会が築けるのではないか…みたいな。

(私自身は、とりたてて今の社会が悪くなっている 、とは思ってないのですが。ただ、昨今の円高などを見ると、個人主義の欲得が社会に影響を与えているのかな、と思うこともあります)

先に引用したものにあった、サンデル教授の言葉
「避けられない不一致を受け入れられる公共の文化をつくりださなくてはいけない。」
という部分には共感を持てます。
不一致を認めた上で、それを受け入れられるコミュニティだったら、理想的だと思いますね。
(まあ、それが簡単にできるなら、世界の問題のほとんどは解決なのですが…)

色々イヤゲな事も書きましたが、全体的には面白くて、良い本でした。
サンデル教授に共感できなくても、考えさせられるところは多く、ためになるのは間違いないです。
今さらですが、おススメです。

(と、書いてからAmazonの書評をみたら、「本としては高評価(★5とか)だけど、教授には同意できない」というような意見がけっこうあって、私の考え方もフツーだったのだなと思いましたけど…)

(2011.8.11)

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(追記)
長くなるので割愛しましたけど、この本に関しては、飲み屋で一晩語れるくらい話題にできるネタ、ありますねえ。

リバタリアン、カントの「自由(人間は自分自身の所有者ではない)」、「黄金律」、「無知のベール」、「格差原理」、アリストテレスの正義と「奴隷制」、コミュニタリアンの理論(兄弟の責任とか)、マッキンタイアの「物語的な考え方」、「愛国心」…

それだけ、良い本だということですね。買ってもよかったな。

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