« インコ臭 | トップページ | オブリビオン »

キリンヤガ

最近読んだ本。

「キリンヤガ」

マイク・レズニック

図書館で借りて読みました。

この作者の作品は、一度も読んだことが無いかもしれない。

早川「新SFハンドブック」の編集部のおすすめ作品の中でも挙げられていて、タイトルは知っており、今迄にも手に取ったことはあったのですが、あまり読もうという気にはなれませんでした。

…が(たまたま他に読む本が思いつかず)、読んでみたところ、これが予想外に面白かったです。 

深いんですよ…。

概要は…

ひとつの世界観と主人公で語られる、短編集です。

「失われつつあるアフリカ一部族の伝統を守るために設立された、ある小惑星の植民世界。
そこで、部族の純潔を守ろうと奮闘する祈祷師の物語」

といった感じでしょうか。

SFといっても、物語のほとんどの舞台は、文明化されていないアフリカ部族の集落に模した世界で展開し、登場人物のほとんども、その素朴な世界観で生きています。

主人公の祈祷師は、ヨーロッパで学んだこともあり、唯一、コンピュータを通じ外界と接触できる人物。
このユートピア世界をヨーロッパ的文化の汚染から守ろうと心を配っています。

しかしこれが、さまざまな内的・外的要因で、危機に瀕し…。

ジャンルとしては「ユートピア(ディストピア)物」と言えるかな。

テーマ的には、ルグウィンの「所有せざる人々」に近い気がしました。

しみじみした雰囲気は、ブラッドベリの「火星年代記」風でもあるかな(あくまで主観)。

正直な所、根本設定を除くと、あまりSFという感じはしないのです。
これが、近世アフリカの物語であっても成立しそう。

それだけに、SF好きでない方にも、読みやすそうな気はしました。

個人的には、こういうSFも好きで…

伝統と進歩どちらを選ぶか、人間の幸せとは何か…というような普遍的な問いを、読者に投げかけます。

面白いのは、主人公は伝統を守る側の人間という部分。
しかも、その伝統が、我々(読者一般)にとっては、特異なものにしか思えない。

例えば、回復の余地のない病の者は、ハイエナのエサにすべし、とか。
外の世界であれば簡単に治す方法があるのに、それを拒否し、自分たちの伝統を頑なに守ろうとする。

一歩引いてみると、それは狂気としか思えないのですが…

それが、主人公の視点を通してみると、それもひとつの考え方かな…と思わせられるのです。

コロニーの人たちも、基本的にそれを望んでやってきたわけですし、主人公に私利私欲は無く、あくまで人々の幸せを考えて行動しているのです。

しかし、幸せの形は、同じ部族の中であっても、ひとつではない。
人は、低き・安きに流れやすいものですからね。

皆のためを思って行動しているのに、それが内側から崩壊してくる…このアンビバレントに、主人公ならずとも、やるせない思いを感じてしまいます。

これ、まったくの別世界の、架空のお話とは思えないんですよね。

世界で煙たがられている、原理主義的宗教指導者たちも、みんなこんな思いを持ってるんじゃないかと想像したり。
(ただ、その外的要因の消滅を企てようと思う人が(一部)いるのは、キリンヤガとは違いますが)

もっと身近で言えば…
「日本のすばらしい伝統文化が、外国文化によって危機に瀕している」と危惧する人。
…これも、(程度の差こそあれ)先の例と同じ直線にプロットされるものでしょう。

まあ、自分の慣れ親しんだ文化や伝統が、他よりも良いものだと思うのは、本能に起因するもので、いたしかたない自然な現象だと思えますが。

この本を読むと、そういう考え方を内から/外からあらためて見る視点を与えてくれるのではないか、と思います。

個人的には、「伝統なんかより、今の幸せ」と思う、キリンヤガ主人公とは反対な思想の人間ですけどね…。

けど、そんな人間でも興味深く読めてしまう、面白い小説でした。

(まあ、クセのある作品ですかね。ストレートなSFが好きな人や、寓意がある話は説教臭くて嫌いな人なんかには、好まれないタイプかな…とも思いましたが。)

(2013.6.3)

|

« インコ臭 | トップページ | オブリビオン »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533792/57519163

この記事へのトラックバック一覧です: キリンヤガ:

« インコ臭 | トップページ | オブリビオン »