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江戸時代の農民

江戸時代の人々の暮らしがどんなだったのか、常々知りたいと思ってました。

江戸時代、人口の8割は農民だったので、平均的な人々の暮らしといえば、農民の暮らしを知らなければ、わからない。

しかし、時代劇や大河ドラマで描かれる江戸時代は、武士や町人のことばかり。
まあ、江戸の町を舞台にしたらそうなるか。江戸の町には農民はいなかったですからね。つまり「江戸を見ても江戸時代は語れない」。

(NHK「タイムスクープハンター」は、たまに地方農民の話をやったりするけど。いい番組だ。)

ネットで検索すればいいじゃないか、とか言われそうですが、意外に「これだ!」という専門ページが見つからないんです。しかたないので、「江戸時代 農民 暮らし」で検索してみると、筆頭に…

江戸時代の農民というのは、どのくらい貧しく、どのくらい苦しい生活をしていたの...
(YAHOO知恵袋)

という記事が出てきました。ある意味、そのものズバリです。
質問自体かなり決め付けな感じなのが、どうかと思いますが…。

で、その答えを見てみると…

(ベストアンサー)
大飢饉や大天災により深刻な状況にでもならない限り、普通に暮らしていました
江戸時代の農民は虐げられていた…というわけではないのです

その他、いくつも回答が寄せられていますが、ほぼすべてが「江戸時代の農民は虐げられておらず、苦しくはなかった」というものになっています。

あれ、そうなの?

先日「天下の義人 茂左衛門」について学んだ身としては、疑問に感じざるをえません。

まず、茂左衛門のいた沼田藩の伊賀乃守信直が悪政を敷いていたことは、訴状の内容や、数々の碑などから確かなようです。(あまりに酷すぎるので、さすがに盛られてるんじゃないか、なんて思ったりもしましたが…数々の証拠は上がってるようで。)

茂左衛門地蔵尊では、伊賀乃守信直の課した租税の一覧を見られました。
その数例をあげてみると…

・土地の検地で石高を5倍にして課税、8公2民。(8割が税ということ)
・薪取りに出ると、山手銭。
・川狩に出れば、川役。
・鍬の柄に、鍬役。
・藍染の着物を着ると、藍役。
・井戸があれば、井戸役。
・家に窓があれば窓役。(窓役を取られないために枠の無い窓を作ってしのいだ農家もあったそうです)

ヒドイです。消費税8%なんて全然甘く感じてしまう。

もっとも、茂左衛門の話は悪領主がいたからこそ残っているわけで、これが稀有で最悪な例の可能性もあります。

良い領主に恵まれれば、幸せな暮らしもできたでしょう。

では、不幸なほうの農民はどれくらいの数だったのか。

こんな資料もありました。

Mozaemon10

江戸時代、一揆は全国で3000件起こっていたそうです。

茂左衛門のような例も「代表越訴型一揆」という一揆の一種なんですね。

江戸時代200年の間に3000件。これを多いと見るか少ないと見るかは解釈次第ですが、とにかく3000件は起こっていたと。

しかも、これは実際に認知された数だけです。

茂左衛門の逸話で分かりますが…この時代、そもそも直訴は死罪なのです。
訴えは正当なものだと幕府に認められたにもかかわらず、茂左衛門は磔刑になってしまいました。さらには、妻子ともども死罪になったとのこと…。

この厳しい措置は、直訴などが頻発することで幕府の権威が失墜することを避けるための施策だったようですが…これって、恐怖政治といえませんかね。

ですから、不満があっても訴え出られず耐え忍んだ人々の方が相当多かったのではないか、と容易に想像できます。この3000件は氷山の一角。

一方で、「農民は伊勢参りもできるくらい自由があった」という話もネットでよく目にします。

伊勢参りには行けたのは確かだと思いますが、それは翻ると、特別な例だということですよね。一般庶民の移動は通常厳しく制限されていたはずです。

群馬でも「碓氷峠の関所跡」という有名な関所跡がありますし、最近、渋川市の杢ケ橋関所(もくがばしせきしょ)跡という川の関所跡にも行ってみました。

厳しいのも当然。藩にとって領民は貴重なリソースですから。勝手に引越しなどされてはまずいわけです。

それでも、楽しみがまったく無いわけでもなく、それなりに幸せに過ごしていた農民もいたでしょう。

でも、それを持ってYAHOO知恵袋の多くの回答のように「普通に暮らしていました」「農民は結構ノンキな生活をしていたことが判ってきました」「全体としては、人並みにくらせたはずです」が一般論であるとするのは、どうも楽観的過ぎると思えます。

それが妥当というのであれば、当時の農民と同等の人口比率である日本のサラリーマンの多くは「普通に暮らし」ていて、「結構ノンキな生活」をしていて、「全体としては、人並みにくらせている」と言えますね。
ブラック企業とか、派遣斬りとか、極悪上司とか、そんなことは例外的な瑣末事ってことになっちゃいます。けど、それで納得できるかって話です。
(その類似でいうと、伊賀守信直はブラック領主といえそう。)

幸せは主観ですから、農民たちが幸せに感じていたなら、どんなに貧しくたって幸せと言っていい…という考え方もありますね。
まあ、とするとインドの「スラムドッグ・ミオリオネア」みたいな暮らしでも、北朝鮮の市民にも、幸せを感じてる人がいると思いますが…そういう暮らしに憧れますかね?

もうちょっと客観的な例で言うと、寿命や死亡率というのはありますね。
死というのは、おおむね普遍的な最悪の不幸といえます。寿命の長さは幸せの尺度といえそう。

江戸時代の日本の人口統計」(Wikipedia)を参照すると、江戸時代の平均寿命は30~40歳くらいだったようです。
これだと、私も既に死んでるトシになる…。

もっとも「江戸時代全般に見られる異常な男女比は嬰児殺しの影響があると見られる」(上記より引用)らしいので、それによって平均寿命が低く計算されている可能性はありますけどね(…って、よけい酷いわ!江戸時代の「間引き」の話は、どこかの歴史博物館でも見た記憶がある。よくある話だったのか)。

…という感じで、これまで私の知る範囲では、とても「江戸時代の農民(=一般庶民)の多くが幸せだった」と解釈はしにくい状況です。少なくとも「現代日本より、江戸時代の方が幸せだ」なんてことはとても言い難い。

ただし、まだまだ情報が少ない。

これからも、機会をみて、色々情報収集してみようと思ってます。

(2014.5.12)

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コメント

聞いた話で調べたわけではないですが、天領(幕府の直轄領)の領主は悪辣な人物が多かった、という話があります。
各藩は、自国内に変な人物がいるとそれを口実に幕府に潰されたりするので綱紀粛正にも厳正でしたが、幕府そのものにはそういう外圧も存在しないわけですし。
また、組織が大きく色々と余裕がある場合、変な人物が紛れ込んでいても問題が表面化しない可能性が高くなるので、ありえない話ではないとは思いますが、一応話半分で。

一方平均寿命は乳幼児死亡率の高さが数値に重大な影響を及ぼすので数値としてあまり参考にはならないです。
Wikipediaの表でも、15歳時の平均余命が45年であるということは、15歳まで育てば概ね60歳まで生きたわけで、今の感覚からすると早死にかもしれませんけど、極端に若くして死ぬというわけでもないですよね。
栄養と衛生の改善と、抗生物質の登場による乳幼児死亡率の大幅な改善は平均寿命の話をする時には外せないと思います。

農村の困窮というと、明治時代の東北地方のそれは学校の授業で習ったりしたわけですが、果たしてこれはずっとそうだったのが不幸に感じられるようになったのか、それとも明治時代になって何らかの要因で困窮しはじめたのかどちらなんでしょうね?(そして東北だけそうなったのは何故なんでしょう?)

投稿: 深井 | 2014年5月17日 (土) 17時08分

コメント、どうもです!
面白いですね。私が参照したYAHOO知恵袋では「天領は概ね裕福であった」という説を唱える人もいました。まあ、実際どっちもありえたのかなとも思います。

平均寿命の件は、確かに乳幼児死亡率の高さが「平均」に大きく影響与えてますね。(Wikipediaの最後の表「東京各所の墓地から出土した江戸時代の満15歳以上人骨平均死亡年齢」では30~40歳程度となっていたので、そちらを採用してみました)
あと、本文ではちょっと論点がボヤけてしまいましたが、乳幼児死亡率が下がったり、栄養がよくなったり、医療技術の発達したりも含めての「幸せ」だと思うんですよね。
YAHOO知恵袋でも見るように、不思議と「江戸時代は良かった」論を唱える人がけっこういるようなので、ちょっと疑念を呈したかったということでした。

東北の困窮ついては、授業習った記憶もあまりありませんでした…(不勉強)。飢饉は江戸時代からあったはずだし…。他の地域に比べ相対的に悪い状況だったとか…?

投稿: 適研所長 | 2014年5月20日 (火) 00時02分

乳幼児死亡率に関しては、栄養状態以外の要因は当時は世の中に存在していなかったので、貧乏だろうが金持ちだろうが状況はほぼ同じだったでしょう。
なので農民だけが不幸だったという話には全く繋がらないということになると思います。それが不幸だったのだとしても、全員不幸だったのです。

投稿: 深井 | 2014年5月22日 (木) 00時09分

そうですね。

人口統計の件については、特に農民だけが不幸ということではないですね。
(「間引き」は農民が多かったはずですが)

ただ、不幸なことには変わりないかなと。

「江戸時代の農民幸せ論」や、少なくとも「江戸時代は現代より良かった論」への異議のひとつにはなるかと。

投稿: 適研所長 | 2014年5月22日 (木) 22時49分

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